銀座 高橋洋服店

Essay

第24回 スーパー表示と服地の関係

2016.04.18

前回は“スーパー〇〇’s”とは、羊から採れる原毛の太さを表す数値であること、また1gの原毛を何メートル引き延ばすかによって、服地を織り上げる時の“糸番手”が決まる、と書きました。

以下少々ややこしくなりますが、そのことから原毛が細くて軽ければ(スーパー値が大きければ)、1gの体積が増えるため長い糸を作ることができること。逆に太い原毛(スーパー値が小さい)1gは体積が小さいため、長い糸を作れない、ということがご理解いただけると思います。

つまり前回お話した80番手とか90番手とか言う細い糸は、スーパー値が大きな原毛を使うことで初めて作ることができるのであって、スーパー値の小さな原毛では80番手、90番手というような糸を作ることはできません。

したがって、仮にスーパー120の原毛1gでは70メートルの糸が作れるとします。一方スーパー80の原毛では70メートルの糸を作るには1.5gの原毛が必要だったと仮定します。その結果織り上げられた同じ面積のスーパー80の布の目方は、スーパー120の布の1.5倍になる、ということがご理解いただけますでしょうか。

これは、きわめて単純化した説明で、実際にはもっと複雑な要素が絡み合った結果ですが、簡単に言えばスーパー値が高い生地は「軽い」ということになるのです。

さて、それでは洋服を選ぶにあたって、どのような素材=服地の服を選択するのが良いのか。単純にスーパー値が高い服地でできている洋服ならば、いい洋服だと考えてしまっていいのか、という問題です。答えはイエス&ノーです。何故でしょうか?それは洋服に何を求めているかということによって変わってくるからです。お客様が洋服に求める物が、軽さなのか、肌触りの良さなのか、或いは服地の光沢や発色なのか。はたまた堅牢度、皺になりにくさ、手入れの簡単さ等なのか。何を追及するかによって服地の選択は全く変わってきます。

極めて簡単に一般論としてご説明すれば、スーパー値が高く(大きく)なるにしたがって、肌触りが良くなる、軽くなる、光沢・発色が良くなるけれど、堅牢度は落ちるので丁寧に着なくてはいけない。皺になり易くなるのでコマメなお手入れが必要になる。また湿気に極端に弱いのも、スーパー値が高い服地の特徴です。一方スーパー値が低く(小さく)なるに従って、一般的に服地そのものが厚く重くなる、肌触りが悪くなる、光沢・発色が悪くなるけれども、ある程度のハードユースに耐えられる。といったようなことが言えましょう。

例えて言うならば、野に咲く野草の花は、自然環境に強いので、特段のケアーをしなくても毎年花を咲かせてくれますが、温室育ちの特殊な花は、特別なケアーをしているときは素晴らしく美しいけれど、チョット手入れを怠るとすぐに枯れてしまう、というのに似ているかもしれません。

以上のようなことを考えると、いたずらにスーパー値が高い服地をセールスポイントにすることは間違いだと言えましょう。スーパー150の超高級服地のスーツが満員電車での通勤に耐えられるとは思いませんし、一日座って仕事をして皺にならないはずがありません。一般的なビジネス・ユースに向いているとは言えないのです。スーパー100~120程度の服地は既に十分高品質であり、肌触りにしても、光沢・発色性にしても決して悪いとは申せません。それでいてソコソコの堅牢度も兼ね備えていますから、ビジネス・スーツをご購入のさいには、スーパー値に惑わされないことをお薦めいたします。

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