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Essay

第43回 男のフォーマルウェア(5) 夜間の略式祝儀

2024.06.13

今回は夜間の略式祝儀について考えてみたいと思います。

比較的略式な夜間の結婚披露宴での新郎・仲人・主賓、あるいは格式が高い結婚式であっても立場上タキシードを着るほどのことでもない場合もありましょう。またなにかのお祝いごとで夜のパーティに出席されることもあるでしょう。
こんな時はブラックスーツ或いはチャコールグレイや濃紺のダークスーツが適当でしょう。
昼間の略礼装の項でお話ししたブラックスーツは、すべてそのまま夜間の略礼装としてもお召しになれますが、同じ昼間の略礼装の時に出てきましたディレクターズスーツは、モーニングスーツの略式ですので夜の席ではお召しになれません。

昼間の略式礼装の項(「第40回 男のフォーマルウェア(2) 昼間の略式な祝儀」)でブラックスーツについては一応記しておきましたが、今一度簡単にご説明しておきます。

生地は黒・紺・濃鼠霜降等のドスキン・バラシア・ウーステッド・モヘアが使われます。上衣は前にも申し述べましたように、一時よく見かけた両前よりも、片前1つ釦あるいは二つ釦の剣衿や下り衿の方がずっと現代的でスマートです。
ズボンは上衣と共地で、裾口は他の礼服同様シングルとします。略式ということを考えれば、ズボン吊式にする必要はないでしょう。ベルト式でもベルトレスでも差し支えありません。
チョッキはモーニング同様、祝儀の時は淡鼠色かクリーム色の替チョッキをお召しになることを、強くお薦め致します。勿論上衣と共地のチョッキでも間違いではありません。祝儀用と言われてきた白襟に関しては諸説あり詳細の説明は別の別の機会に譲りますが、使用しない方が現代的だといえましょう。

ブラックスーツは1着で祝儀・不祝儀・昼夜を問わずお召しになれる、大変ご利用範囲の広い便利な礼服であることは前にも申し述べましたが、昼間と夜間のアクセサリーの違いについて少し考えてみたいと思います。

昼間の祝儀用のアクセサリーとしては:

白黒斜縞あるいはシルバーグレイの結び下げネクタイ、白のワイシャツ、白麻のポケットチーフ、銀あるいは真珠のネクタイピンとカフスリンクス、靴は黒皮のよく磨かれた短靴、毛羽っていない黒無地の靴下といった具合です。

もちろん祝儀に限って考えれば、昼間も夜間もアクセサリーに基本的な違いはありません。昼間用のものを総てそのまま夜間に流用してもなんら差し支えはありません。しかしせっかくの夜のお祝いの席ですから、ちょっと変化を持たせて、パーティを楽しんでみてはいかがでしょうか。

例えば、白黒斜縞のネクタイを止めてシルバーグレイのネクタイにして、ポケットチーフもシルクにされては如何でしょうか。ワイシャツは白無地から光沢のある共柄とか、淡いカラーシャツにされてもよいでしょうし、タイピンやカフスリンクスも金や宝石が使われたものになさるのも面白いでしょう。靴も金具飾りが付いたものやエナメル靴を履いてみるのも一案です。ただし、正式な夜会の場合は、原則として金色は使用しないことをご承知おきください。結婚披露宴とパーティー、区別が難しいところではあります。

もちろん、こうでなければいけない…といったものではありませんが、ちょっとしたアクセサリーの変化で、同じブラックスーツが随分と違った感じでお召しになれると思います。

礼装用ネクタイというとデパート等ではすぐに、パールホワイトのネクタイを出してきます。もちろんあれが間違いというのではありませんが、ワイシャツの色と区別しにくく衿元に締まりがなくなってしまいます。特に写真を撮ったり、遠くから見たとき、ノーネクタイに見える恐れがあるので、あまりお薦めできません。むしろ最近英国では、極く当り前のネクタイの中で、白黒柄や銀黒柄のそれらしいネクタイを探し、礼服用とするのが一般的なようです。

ブラックスーツという言葉でひとくくりにしてしまいましたが、筆者として些かの説明を加えさせていただきます。ここで言うブラックスーツはダークスーツ一般のことを意味しています。黒 黒に近いチャコールグレイや濃紺のスーツのこととお考えいただきたいと思います。黒は英国では“喪の色”と言われ、黒のスーツいわゆる日本式のブラックスーツは結婚式では着用出来ません。正式な礼装の燕尾服やタキシード モーニングは黒ですが、黒のスーツでお祝いの席に参列することはないのです。結婚式に出席する女性のドレスも黒はNGです。

最近の服装のカジュアル化は目を覆いたくなるような状況です。スーツさえ着ていればフォーマルだと勘違いしている諸氏もいるようですが、せめてビジネススーツと冠婚葬祭そしてビジネスシーンでも着用可能なダークスーツを区別していただきたいと思います。

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