第41回 男のフォーマルウェア（３） 昼間の不祝儀
2024.04.18
男の礼装シリーズの3回目は昼間の不祝儀について考えてみたいと思います。
葬儀・告別式に参列する人々を大別すると二つに分けられると思います。ひとつは遺族や葬儀委員や友人代表といったいわゆる当事者と、もう一方は一般の焼香客です。そして両者の間には自ら服装に違いが出てきます。
では関係者は何を着たらいいか？葬儀や告別式は夜に及ぶことはないので第一礼装ならモーニングスーツということになります。基本的には前々回にご説明いたしました”祝儀のモーニングスーツ”と同じですが、細かい部分に違いがありますのでご注意ください。ここではその違いについてのみ記すことに致しますので、モーニングスーツそのものについては前々回の記事を参考にしていただきたいと存じます。
まずチョッキですが、不祝儀の場合は黒、濃鼠等のコートと共地のものを着ます。淡鼠やクリームの替チョッキは慶事専用であり、不祝儀には着用できません。またよく見かける黒チョッキの白い縁取り（スリップといいます）も不祝儀の時は取って着るものと言われてきました。そもそもスリップ自体ヨーロッパでは長い間見かけないものになってしまい、日本だけで古色蒼然として存在していたため、弊社ではお客様に白襟をお勧めしておりません。しかしプリンス オヴ ウェールズがしばしばスリップがついたチョッキをご愛用されている写真があるため、サヴィルロウのテイラーに質問したところ、“誰でも祝儀にも不祝儀にも使用できる”という回答が返ってきました。しかし日本でみられるデタッチャブルの襟とは明らかに素材感もついている位置も違います。というような経緯を考えたとき、やはり現代の日本では白い縁取り襟はお使いにならない方がよろしいと、申し上げておきます。
ズボンは原則として慶事用と同じです。欲を言えば、慶事用は白黒のはっきりした派手目なもの、不祝儀用には全体に黒っぽい地味なものが望ましいのですが、そこまで使い分ける必要はないと思います。
ネクタイは黒の結び下げ、靴下・靴は黒で祝儀用のものと同じです。不祝儀に宝石は使われません。せいぜい真珠と銀程度のものでしょう。
手袋は鼠でも白でも構いませんが、黒ならよりよいですし、ポケットチーフ、スカーフ等も勿論白も使えますが黒にされれば申し分ありません。
次に喪章ですが、あれは喪に服する人のみが巻くものですから、遺族だけがつけます。主催者側でも遺族以外の人がつけるものではありませんし、まして一般焼香客が、”焼香には行かなければならないが、平服だしネクタイも黒ではないから、せめて喪章だけでも…”というのは間違いです。充分に注意していただきたいと存じます。
モーニングスーツでなければ、ディレクターズスーツかブラックスーツということになりましょう。（前回の記事参照）
この場合も勿論替チョッキは着用できません。上衣と共地のチョッキを着用してください。細かい点はモーニングスーツの場合に準じます。当事者でも特に祭壇の両側に並ばれる方々はせめてブラックスーツ程度の服装はなさるべきだと思います。関係者でも受付や荷物を預かるいわゆるお手伝いの方々はブラックスーツが最も相応しいですし、場合によっては濃紺や濃鼠のダークスーツでも充分ではないでしょうか。モーニングコートではかえっておかしなものです。
それでは一般焼香客は何を着たらよいのでしょうか？故人あるいは遺族との関係によって服装は違ってくると思います。よほど密接な関係にあって葬儀から参列されるような方ならば、以前ならばモーニングスーツをお召しいただきたいと申し上げましたが、近年はその必要もないかと思われます。ディレクターズスーツならば申し分ありませんが、ブラックスーツ或いはダークスーツでも十分ではないでしょうか。
しかし、そうでない本当の一般焼香客はブラックスーツかダークスーツで充分だと思います。ネクタイはできれば黒かそれに近いものに致します。またワイシャツも色物・柄物はやめ白が無難です。そして一般焼香客の喪章は間違った習慣ですので、是非とも改めて頂きたいと存じます。
告別式や葬儀というのは昼間行われるものです。いわば勤務時間中なのですから、都合でどうしても平服でなければ参列できないのであれば、それでもまったく差し支えありません。
ご承知のように最近はすべてにおいて略式になってきています。葬儀 告別式においても簡略化が進んでいます。したがって服装もかつてのように格式ばったものである必要はないでしょう。特に「偲ぶ会」のご案内状などには必ず「平服でご参加ください」という一文が書かれていると思います。ただし“平服”とは何か？というのが問題でそんな時にこそ普段の装いに関する常識が試されるのではないでしょうか。
