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Essay

第39回 男のフォーマルウエア(1)昼間の正式な祝儀

2024.02.22

礼装をするに当たって最も大切なことは、それを着用する時間帯に関しての配慮でしょう。古くから日本では礼服といえばモーニングスーツ一点張りで、昼夜の区別なくモーニングが着られてきました。これは昼夜の区別のない和装の発想で、明らかな間違いです。モーニングとはその名の通り昼間の礼装ですので、どのような理由があるにせよ、夜間の着用は規則違反と申せましょう。

最近は国際的な会合も多くなってきました。是非とも日本的解釈ではなく、世界に通じるマナーを身につけていただきたいと思います。
今回は昼間の正式な祝儀の場合です。結婚式の新郎、仲人、主賓、あるいは格式の高い式典や披露宴、改まった祝賀パーティや落成式などが考えられます。昼間の正式礼装はモーニングスーツです。素材は黒、濃紺、濃鼠霜降等のドスキン・バラシア・モヘア等が使われます。上衣は現在はシングルーつ釦剣衿のモーニングコートです。チョッキはシングルあるいはダブルで上衣と共地でも間違いではありませんが、祝儀の場合はシルヴァーグレイやアイヴォリーカラーの替チョッキを着用すればより良いでしょう。チョッキの白衿については別の機会に詳しく説明しますが、特に付ける必要はないでしょう。ズボンは縞のコールズボンで祝儀容は明るい感じが良いでしょう。礼装用ズボンには総て折り返しは付けません。また礼装用のズボンは総てズボン吊りを使用するよう心がけていただきたいと思います。

モーニング用ワイシャツは昔はイカ胸ウィングカラーで、色はもちろん白とされていましたが、現在では白無地のごく普通のワイシャツで充分ですし、むしろその方が現代的といえましょう。カフスはダブルカフスでも構わないでしょうが、ダブルカフスの起源を考えるとやはりシングルカフスの方が正式だと思います。ネクタイは結び下げ礼装用ネクタイ。白黒斜縞のものはややオールドファッションという感じがします。シルヴァーグレイの無地や共柄のもののほうが現代的な感覚です。靴下は黒無地、絹の必要はありません。ナイロンで充分です。但しウールの毛ばだったものは避けた方がよいでしょう。

靴は一文字飾りあるいは無飾りの光沢のあるカーフのオックスフォード型、先エナメルも間違いではないようですが、エナメルを使っていないものの方が上品なようです。手袋はモーニングにはグレイの羊皮製が正式です。しかし日本ではなかなか手に入らないのと、米国式は古くから白革製ということで白でも差し支えないようですし、現在は白木綿やナイロンで代用されているようです。

世界的に無帽時代となり、礼装の時も帽子なしでも問題ありません。しかし、正式にはシルクハットです。山高帽や鍔の端が上に反り返ったホンバーグは本来ビジネス用の帽子なので代用するのは間違いです。
男性が使える宝石類は限られています。モーニングの場合タイピン、カフリンクス等に色宝石を使って差し支えないと言われていましたが、最近は余り使われなくなったようです。一般的には真珠と金銀といったところでしょうか。
その他の付属品としては、ハンカチーフは白麻、ポケットチーフは白絹が正式とされていますが、白木綿のハンカチーフと白の光沢のある化繊のポケットチーフで充分でしょう。
マフラーは昔は白黒縞柄のものをやりましたが、白やシルヴァーグレイの無地や共柄のもののほうが現代的といえましょう。これもやはりウールの毛ばったものは避けていただきたいと思います。

以上、昼間の正式祝儀用モーニングスーツ着用法の要点です。不祝儀の場合細部が異なりますので、このまま流用できないとお考えください。また、最初に申し上げました通り、礼装には厳しい時間的制約がございます。夜間の不祝儀の席にはくれぐれもモーニングで参列なさらぬようご注意いただきたいと思います。

最近は全てにおいてカジュアル化が進んでしまい、昼間の正式な礼装といえどもモーニングスーツをお召しになる方は少なくなってしまいました。しかし大人の常識としてフォーマルなオケイジョンには何を着るべきか心得ておくことも、あながち無駄なことではないと思います。というような考えから、数回にわたって簡単にフォーマルウェアーの着装法をお届けしてゆこうと考えております。
更に詳しい情報をご希望の方は、拙著『黒は日本の常識 世界の非常識』をお読みいただきたいと存じます。

 

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