銀座 高橋洋服店

Essay

第11回 サイズと寸法

2014.02.10

サイズと寸法。しばしば同じような意味に使われがちですが、実は似て非なるものであることにお気付きでしょうか。

サイズとはできあがった製品の大きさを示す尺度であり、一方寸法(メジャメント・測定値)はその物の実測された大きさや長さのことをいいます。つまり、履いている靴のサイズは26センチであっても、実際の足の寸法は25,7センチであったり、バスト寸法が97センチ、ウェストは89センチの人が着ている服のサイズはAB6だった、といった具合です。ですからサイズは既製品に用いられる用語であり、注文生産されるものはすべからく寸法(メジャメント)にのっとって製作されます。

さて服のサイズや寸法に関して考える時、一般的に言って大きめのサイズを着用すれば、あるいは大きめの寸法で注文すれば、「着て楽」だと思われがちですが、あながちそうとばかりは言えません。もちろんただ着て立っているだけなら大き目の服の方が窮屈なことは無いかも知れません。しかし服というものは、以前にも書きましたように、着用して動くことが大前提なのですから、何よりも動き易い服であることが大切であることは言うまでもありません。

一番誤解されているのが肩幅とアームホールです。広い肩幅そして大きなアームホールは、腕を下げてジットしている時は確かにゆとりがあって楽かもしれませんが、腕を動かした時には、ジャケットが一緒に動いてしまい、実に動作がしにくものです。

とは言うものの、既製服の大部分は、ハンガーに掛けたり、トルソーに着せたりして展示した時に美しく見えるように裁断されています。つまり直立不動で立った時に見栄えのする服作りを目指しているのです。例えば、腕のついていないトルソーに着せ付けて美しく下がる袖は、人が着用して腕を挙げようとすれば、相当のストレスを感じることになるはずですし、逆に人が着用して腕が挙げやすいように裁断された服は、ハンガーに掛けたり、腕の無いトルソーに着せ付けたりした時に、袖には独特の皺が発生します。しかしこの皺こそが腕を動かすために欠かすことができない余裕なのです。

話が脇道にそれました。サイズと寸法の話に戻ります。

例えば簡単に説明すると、既製服ジャケットの原型を決定する時には、「上着丈〇〇センチに対してウェストのシェイプはどのくらい、肩幅は〇〇センチ、袖丈は〇〇センチに設定すれば、美しいジャケットが出来上がる」という考え方に基づいて原型を創りあげ、これをグレイディングと言う方法で様々なサイズに展開して行きます。極端に言えば、そこでは美しいジャケットを創りだすための数値は在っても、着用する人(モデル)のウェスト寸法・肩幅・腕の長さなどはまったく考慮されていなません。

既製服を購入するということは、自分の寸法に一番近いサイズの服を購入することなのです。最近ではズボンのウェスト寸法、股下や袖の長さをアジャストしてくれるのは当然のサービスとなっていますが、これは単にメジャメントをアジャストしてくれているだけです。確かに袖丈や股下寸法のアジャストはしてくれても、肘の位置や膝の位置の調整はしてくれません。上着丈、股上寸法の変更も叶いません。つまりメジャメントのアジャストはサイズの変更ではないので、AB6はどうやってもAB6のママなのです。まして洋服を作る上で最も大切な、モデルの体型に合わせた体型補正など全く不可能なのです。

既製品が悪いと言っているわけではありません。これは誰が着てもそれなりに着用可能な服を創らなくてはならないという既製服の宿命なのです。その代り価格が安かったり、デザイン性が在ったりと、既製服には既製品なりのメリットがたくさんあると思います。

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