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Essay

第47回 ドレスコードって何だろう

2025.03.11

私は一介の仕立て屋のオヤジで、政治の世界のことをとやかく言うつもりは毛頭ありません。ましてや海外での外交の話となればなお更のことです。ただ今回は服装について色々ニュースで取り上げられているので、ちょっとだけ思ったことを書いてみたいと思いました。

そうです、先日のトランプ アメリカ大統領とゼレンスキー ウクライナ大統領の会談の時の話です。
事の発端はトランプ大統領の一言「You’re all dressed up.」というゼレンスキー大統領の装について発した一言から始まったようです。
これに続いてトランプ大統領を強力に支持する保守系のメディアであるリアル アメリカズ ヴォイスの記者ブライアン グレン氏(彼は“ハイヒールを履いたトランプと呼ばれるマージョリー テイラー グリーン共和党下院議員のボーイフレンドだとか…)が「あなたはなぜスーツを着ていないのか。この国の最高位のオフィスを訪問するにあたって、スーツを着ないで来たのはスーツを持っていないのか」と問いただすとゼレンスキー大統領は「この戦争が終わればスーツを着る。おそらくあなたの物より上等なものかも知れないしそうではないかもしれない」と答えたと言われています。
このやり取りはネットのニュースで読んだものです。
私が実際に聞いたものではありませんので(多分英語で聞いても分からないでしょうが…)どんなニュアンスだったかは定かではありません。

ゼレンスキー大統領は開戦以来常にカーキ色系のTシャツにカーゴパンツ風のトラウザーズという、戦場の兵士達に寄り添うような装いで通しています。かつて国連の議場で演説した時も同じようないでたちだったと記憶しています。
今回は黒の上下でシャツの左胸にはウクライナの紋章であるトルイーズブがプリントされたもので、それなりに格式ばったものだったのでしょう。
それでもグレン氏は「大統領だけでなく、すべてのアメリカ国民に対して無礼である」と言っているようです。

かつて第二次世界大戦中の1942年。アメリカのホワイトハウスを訪問して当時のルーズベルト大統領と会談した時のチャーチル英国首相は、スーツではなくオーバーオール姿でした。チャーチル首相は第二次世界大戦中一貫してオーバーオール姿で通し、覚悟のほどを示したと言われています。
トランプ大統領の最側近であるイーロン マスク氏もホワイトハウスの大統領執務室からTシャツ姿でMAGA(MAKE ANERICA GREAT AGAIN)のキャップを被ってメッセージを発信していました。

その後ゼレンスキー大統領はヨーロッパにおいて、各国を代表する政治家達と会談する時も、そして世界で最も伝統的な格式を重んじる英国において、チャールズ三世国王陛下と会談する時も同じ服装でしたが、服装に関する問題は全く聞こえてきませんでした。
世界で最もドレスコードが緩いと想像されている(私はそう思っていますが)アメリカでだけ、ゼレンスキー大統領の服装が問題になっているのはなんだか不思議でなりません。

服装というのは同席する他の人々に対して失礼に当たらないように装うというのがドレスコードの大原則です。
ですから例えスーツを着用していても、「ブラックタイ」指定の席にスーツ姿で列席するのはルール違反です。しかし出席したご本人が何かしらの社会的に重要な覚悟のもとに主張をもって、指定のドレスコード以外の服装で参列したとしても、それは認められるものだと思いますし、ましてや今回のゼレンスキー大統領の様に開戦以来終始一貫して前線の将兵に寄り添う意味で戦闘服風の服装で過ごしている装いに、理解をしめすことができない国こそ、服装後進国と言ってしまっては過言でしょうか。
そんな国でもまだスーツが大切だと思われているのは、「まだまだスーツも捨てたもんじゃない」と喜ぶべきことなのか、はたまた「何にも分かっていない連中に大切にされても、有難くもなんとも無い」と悲しむべきことなのか。少々複雑な気持ちです。

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