銀座 高橋洋服店

Essay

第45回 着られりゃいいのか

2024.10.09

私は一介の洋服屋のオヤジで政治の世界に首を突っ込む気などサラサラありませんが、世の中がここまで色々コメントする状況になってしまったので、やはり洋服屋の立場から少しだけ書かせていただきます。

そうです石破内閣の閣僚記念写真についてです。
組閣が終わって夜になってからの記念写真なのに、なぜモーニング姿なのか?モーニングは昼間の礼服のはずだけれど…これについては以前にもチョット触れたかも知れませんが、かつてモーニングが正式な作業服であった時代、執務中はモーニングを着ていました。その執務中に呼び出されて閣僚を命じられ、そのまま記念写真に納まった為、記念写真も執務服姿のままつまりモーニング姿であった、という昔の習慣の名残なのです。モーニングは現在のように礼服としての認識はなく、あくまでの仕事をする時の正しい服装「正装」だったのです。いわば現代社会の「スーツ」と同じ認識でした。

とまあモーニング(正式にはモーニング スーツと言います。モーニング コート ウェストコート コール地のトラウザーズで1セットです)を着て写真に写るわけですが、いやまあそのモーニング姿の酷いこと。
かつてこれほど酷いモーニング姿にお目に掛かったことはありません。もちろん大きく引き伸ばされた写真ではありませんし、最前列の5人の閣僚の方々しか全身は分かりません。
モーニングなんて最近は一般的には余り着用の機会がありません。したがって現在のご自分の体形に合ったものをお持ちの方が少ないのは想像できます。しかし百歩譲って、政治家たるもの突然の着用機会に備えて、体形に合った貸衣裳の手配が出来る準備位されては如何でしょうか。

さて、何がダメなのか?
まずズボン吊りを使っていないと思われます。もちろんズボン吊りがマストではありません。仮にベルト式であってもハイウェストできちんと止まっていればいいのですが、今回の場合トラウザーズがずり落ちてしまっているのでチャック下の部分(小股と言います)がだぶだぶに余っていて大変見苦しい状態です。同時に股下丈が長くなりすぎてしまうので裾口がグチャグチャに余ってしまっています。またトラウザーズとウェストコートの間から何かが見えています。まさかお腹の地肌ではないと思いますが、股上がずり落ちている証拠です。このようにトラウザーズがずり落ちると様々な欠陥が生じてしまうのです。トラウザーズはしっかり履き込まないとみっともない結果になってしまうのが良くお分かりいただけると思います。後日官邸が発表した写真ではさすがにまずいと思ったのでしょうか、修整が加えられ、はみ出た何かは消されていました。

ウェストコートの裾はモーニングコートの前端と平行に幅2センチ 長さ7~8㎝位見えるのが理想とされていますが、出過ぎていたり見えなかったり…です。

閣僚諸氏の服装の不都合に関して書き出せばまだまだ他にもあるのですが、写真全体をもう少し良くする方法もあったと思います。
今回の写真では全体のまとまりの悪さが気になります。もう少し被写体全体を奇麗な形にまとめる方法があったのではないでしょうか。歴代の閣僚の記念撮影を観てみるともう少し全体がキレイな形にまとまっています。
また、被写体になる人達の服装も、チョットした注意で、もう少しマシになったのではないでしょうか。少なくとも「だらし内閣」とか「みっとも内閣」等と言われずに済んだかも知れません。

どの様なシチュエーションの記念写真でも、フォトグラファーが全体を見て「一番後ろの列、右から三番目の方、お身体もう少し右に回してください」「一番前の左から四番目の方、顎チョット引いて、お顔もう少し左です」とか注意していかにバランスの良い写真を撮るか努めています。この記念写真ではそんな注意が出来ないような状況だったのでしょうか。大臣には注意も出来ないのでしょうかね。

人は外見ではない、と言われますが、意外に人々は外見で他人を判断しているようです。欧米では他人に見られる立場にある人の多くは、スタイリストによるアドヴァイスを受けています。国民の代表 日本国の代表として海外に出て行かれる大臣の皆様、もう少し服装に注意を払っていただきたいと思います。

    アーカイブ
TOP

銀座 高橋洋服店