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Essay

第42回 男のフォーマルウェア(4) 夜間の正式祝儀

2024.05.29

夕刻からの正装というと、”燕尾服”ということになりますが、現在では外交官か音楽家といった方々しか燕尾服を着る機会はなくなってしまいました。
そこで一般的に考えられる準正式な晩餐会、格式高い結婚式、フォーマルパーティあるいは海外でのオペラ観劇といった機会での第一礼装は”タキシード”(米国名 英国では”ディナージャケット”と呼ばれ全く同じものです)と思っていただいて結構です。

生地は黒または濃紺のドスキン バラシア モヘア等ですが夏用には白ドスキンや白麻が用いられることもあります。
普通は上衣は片前または両前のヘチマ衿(別名ショールカラーと言われます)か剣衿で、ラペルに拝絹と呼ばれる絹が掛けられますが、ヘチマ衿の場合は拝絹を掛けずに共地で作ることもあります。

チョッキ着用の場合は拝絹地か上衣と共地の衿付チョッキですが、最近では拝絹地で作られたカマーバンドと呼ばれる腹帯がチョッキの代用として用いられるのが一般的です。
ズボンは上衣が黒・濃紺の場合は共地、その他の場合は黒で側章と呼ばれるリボン飾りが1本付けられます。礼服ですので勿論折り返しはありません。また他の礼服同様にズボン吊式の方がより良いでしょう。

シャツは白のヒダ胸かイカ胸でカラーはウィングまたはダブルカラー、そしてカフスは出自を考えた場合シングルの方が良いでしょうが最近はダブルの方が人気があります。

ネクタイは必ず黒の蝶ネクタイです。他のものはよほどの例外を除いて一切認められませんのでこの点だけは充分に注意していただきたいと思います。この黒の蝶ネクタイ故にタキシードを別名”ブラックタイ”と呼ぶほどです。(ちなみに同じ理由から燕尾服を”ホワイトタイ”と呼びます)

靴下は黒で毛ばっていないものでしたらなんでもよいでしょう。靴は黒でエナメル サテン等の素材のオペラパンプス 舞踏靴あるいはオックスフォード型のものが正式とされています。手袋はあえて持たなくてもよいようですが、持てば白の皮製か布製のものでしょう。シャツの前はスタッズと呼ばれる飾り釦で止められます。黒蝶貝 黒真珠 オニキス等が銀色の金属に嵌めこまれたもので、カフスリンクスとセットになっているものが多いようです。もちろん真珠 ダイヤモンドも使えますが、正式な夜会服に金色は使わないことになっています。その他の付属品としては白麻のハンカチーフ 白絹のポケットチーフとスカーフ、そして白のタキシードの場合に限り黒のポケットチーフが用いられます。

帽子はシルクハットやオペラハットが正式ですが、現代では冠るならホンバーグか、中折れで十分です。もちろん無帽でもなんら差し支えありません。

以上極めてオーソドックスなタキシード着用法ですが、細かい取り決めの多い礼装の中にあってタキシードは比較的自由な礼装と言えましょう。

パーティ用のおしゃれ着としてお召しになる場合はもう少し楽しくお召しになってみては如何でしょうか。
例えば、淡いカラーシャツを着るとか、カマーバンドやチョッキを柄物のシルクで作るとか、さらにはファンシータキシードと呼ばれる色物や柄物の上衣を着るのも楽しいものです。
ただ、その遊びの中でもいくつかの絶対に守っていただかないといけないルールがあります。その第一は、夕刻以前には着用しないこと。第二に、不祝儀には着用しないこと。第三に黒の蝶ネクタイをすること。そして第四に側章が一本付いた黒のズボンを着用すること。以上の点は是非とも守っていただかないとタキシードではなくなってしまいます。留袖で葬儀に参列したらどうなるでしょう。第一礼装に色足袋を履いたり、黒喪服に色帯を締めたら他人はなんと思うでしょうか。タキシードを昼間着たり、白の蝶ネクタイをするのはまさにこれと同じで、楽しいお遊びではなく間違いなのです。それはもう礼装と呼べるものではなく舞台衣装になってしまいます。もっともはじめから舞台衣装のつもりなら何を着ても構いませんが…。

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